つくりかけのもの・プロジェクトがある人を取材し、それを一緒に完成させてくれる人を探すという目的で始めた「つくりかけ取材」。今回は半田さんの描く繊細なペン画を紹介します。

ペン画のきっかけは待っている”誰か”の存在
「物心ついたときから絵を描いていました。とくに小さい頃は怪獣が好きで、よくゴジラの絵を描いていました。小学生のときに自分の絵が入選したときは嬉しかったです。」
「今の形態のペン画を描き始めたのは割と最近で、大学生くらいです。友人に絵が好きな人がいて、描いてみてよって言われて。それで自分の好きなもの描いてみたら、褒められたことがきっかけになりました。」
「描こうと思うときは、だいたい背景に”誰か”の存在があったと思います。その”誰か”に見せたいという思いで描いていました。」
友人がきっかけでペン画を描き始めるようになった半田さん。好きなことを続けるには、待っている人の存在も重要なのかもしれない。たった1人のために、自分の好きな絵を純粋に表現する。それが半田さんの作品の丁寧さに表れているようだ。
小田隆さんの作品に影響を受ける
「鉛筆でささっと描いたような下書き感のある絵がもともと好きだったんですが、なかなかうまくいかなくて。自分の絵のお手本にするために、Twitterで色んな人をフォローしてく中で、小田隆さんという細かい描画が印象的な人を見つけました。その方をお手本にして、描いていきました。」

「人が描いたものをいくらでも見られるのって便利な時代ですよね。わざわざ個展とかに行かないと見られなかったものが、家にいながら見られるのって本当に便利です。」
SNSが普及した現代なら、手軽に好きな作品を探すことができる。昔よりも様々な作品の優れた点を自分の作品に取り入れやすくなったのかもしれない。半田さんの描くペン画には小田隆さんの繊細なタッチが取り入れられている。
新しい刺激が原動力
「これすごいって思うような作品を見たときは、絵を描きたくなります。新しい刺激を得られたときはインスピレーションが湧いてきますね。ティム・バートン監督の絵を見たときも感動しました。線をちゃんと目立たせるような淡い色の塗り方がいいですね。」
素晴らしい作品を見て感動したときに、自分も表現したいという衝動が湧いてくる。半田さんは「絵を描く」ことと同じくらい、「作品を受け取る」ことも好きなのだろう。新しい刺激による原動力は、自分の作品のスタイルを新しい方向に導いてくれることもある。
ストイックな評価でお蔵入りに
「Twitterとかですごい絵を見つけると、自分の絵はそれに比べると全然ダメだなあって思ってしまって、描き上げられなくなるときがありますね。自分は足元にも及ばないから、最後までつくり続けることに意味を見出せなくなってしまうんです。ちなみに作品は一度ファイルに挟んでしまっておくんですけど、あとで大半は捨てて、これはよくできてる方だなって思うやつだけとっておきます。」

ストイックに自分の絵の評価をしている半田さん。ものづくりをしている人の多くは、自分の作品をかなり厳しい目で見ているように感じる。しかし、それがスキルアップにつながることもあるので、ストイックな評価は必要な要素でもある。それゆえ「自信のバランス」は難しい。作品に「いいね」を送ってくれる人が増えたり、協力をしてくれる人が現れたりすれば、お蔵入りしてしまった作品にもう一度命が宿るかもしれない。
「働く」と「つくる」の狭間で苦悩する
「今、会社員として働いているのは、突出したものがないからもうやるしかないって感じで。なんだかんだ収入を得ることが大事っていう考えがあるんです。絵は好きなんですけど、収入になるかと言われたらならない。お金を効率よく稼ぐには生産性を上げることが大切だと思いますが、ものづくりは時間をかけてこだわり抜いてしまう。そこが難しいところな気がします。」
創作活動で食べていくのは難しい、というのはよく聞く話だ。こだわればこだわるほど、それだけ時間や体力が必要だ。しかし、そうしてできあがったものの価値に、こだわり抜いた時間や体力全てが反映されることは稀である。逆に会社で働いていると、試行錯誤している時間も給与は発生する。ただ、その試行錯誤は0から自分の好きなものを生み出せる時間ではないことが多いので、創造性は担保できない。
なかなか難しいことだが、「働く」と「つくる」を隔てる溝を打破できる策を考え続けることができれば、創造の世界は広がるかもしれない。
自由なアレンジで次の完成へ
「色を塗ってくれる人。グッズにしてくれる人。立体にしてくれる人。動画にしてくれる人。アレンジは自由で、その人の得意なことを活かした形態になれば、おもしろいと思っています。一緒につくるのもおもしろですが、展示の段階でコラボするような、共同個展みたいなのもおもしろそうですね。」

半田さんの絵は「ペン画」という意味では一度完成を迎えているが、この取材を通して次の完成の形について語ってもらった。その結果、完成の形は半田さんが決めるのではなく、共感してくれた人が自分の得意分野で自由にアレンジして、作品に新しい価値を見出していくという方向性が見えてきた。
また、作品に手を加えるのではなく、自分の作品がある人と一緒に個展を開くというやり方も見えてきた。それぞれの作品を持ち寄って、個展という形で一つの完成を迎える。そんな完成形というのもおもしろい。
この経験を自信につなげたい
「今回の取材をきっかけに、自分の絵が人の目にふれる機会ができたのはありがたいことです。自分と同じように自信がなくて発信できていない人にも、こういった取り組みを経験してもらいたいです。自分のつくったものを誰かに深堀りされるのは案外楽しいですね。とてもいいきっかけになりました。」
取材の終わり、そう笑顔で語ってくれた半田さん。自分のつくったものと真剣に向き合う時間をつくり、俯瞰的に評価するというのは、一人だけではなかなか難しいこともある。誰かに作品を見せ、コミュニケーションを取り、自分の作品の魅力を再発見するということは重要だ。そこで自信が生まれれば、さらに多くの作品を世に発信していけるかもしれない。
幼い頃から好きだった絵を描くということを、大人になった今でも続けている半田さん。そんな半田さんがつくるペン画の数々は、力強い存在感がありながら、とても繊細で丁寧な描き方が印象的である。その背景には、「絵が好き」という純粋な思いや、待ってくれている誰かを思う気持ちがあるのかもしれない。
つくりかけを支援する
半田さんについて
趣味
イラスト・読書・映画鑑賞・ドラマ鑑賞・カメラ
仕事
管理・設計
つくりかけのもの
ペン画
完成に必要な要素
色を塗ってくれる人。グッズにしてくれる人。立体にしてくれる人。動画にしてくれる人。一緒に個展をやってくれる人など。どんな形態でも可能。